画廊との交渉で重要なこととは?ー1996年銀座にて
画家とは?画家になるには?当時、画廊といっても、さまざまなタイプがありました。
1.敷居の高い画廊
2.市民ギャラリーのような、町のコミュニティの場を提供している画廊
3.カフェギャラリーなど、お店の余ったスペースを利用しているところ
そして、
4.貸し画廊
銀座や京橋界隈では当時、若手作家を応援するような貸し画廊がいくつも存在し、
毎年ある時期に、各画廊が一押しの作家の個展を発表し合う企画もいくつか開催されていました。
どうやったらその渦中に加わることができるのか、まったくあてなどありませんでした。
画廊を訪ねてみても、作家やスタッフはいても、オーナーらしき人に会えません。
それでもなるべく時間を作って、画廊散策をしはじめたその矢先に、
一通の手紙が銀座の画廊から舞い込みました。
「あなたの個展を考えています。
ご興味がありましたら、一度画廊に資料を持っていらして下さい。
お待ちしております。」
実は立ち寄ったことのない画廊でしたが、一機にテンションが上がりました。
作家活動をしている友人に、その手紙を見せると、
「銀座の画廊はよく用心した方がいいよ。
一人で行くのは危なっかしいから、ついて行ってあげようか?
それからポートフォリオは大事。
これまで制作した作品の写真ファイルを作って持って行った方がいいよ。」
「他に銀座にあてはないし、画廊を回っても、ここで個展をしたいとなかなか思えないし。
そういう話に乗るというのもよいきっかけになるかも...。」
と、もうその時点でほとんど乗り気になっていました。
当時は、フィルム・コンパクトカメラで撮影して、
スピード写真のお店でプリントした作品写真を、
A4の用紙に貼付けたファイルを1冊つくりました。
それを持って画廊を訪ねて行くと、初老の店主が奥の応接室に招いてくれました。
「あなたはどういう作家になりたいですか?」
「はぁ。とにかく沢山個展発表をしたいと思っています。」
「それはとてもいいことですよ。それで、うちは完全な貸し画廊なので、1週間でこの金額になります。」
手渡された利用規約を見てみると、かなりの金額でした。40万円くらいの金額だったと思います。
とても払えそうにありません。
ついて来てくれた友人も脇からその金額をのぞいて、顔を横に振っています。
「これまでの個展は、作品が売れるので、企画や半企画でしてもらっていたものですから...」
「ふ〜ん。どういう人が買うんですか?知り合いですか?」
「いろいろです。知り合いもいれば、始めて会った人とか、作家もいます。」
「へ〜。でもね、作家はコレクターが買うようにならないと、話しにならない。
知り合いは、そりゃ一度は応援しなきゃと思って買うでしょうが、
二度三度はとても付き合いきれないから、個展にも来なくなるもんです。
コレクターって言ったてね、ピンからキリまでありますよ。
大コレクターが買うならともかく、
規模の小さい趣味程度のコレクターまでいるわけですからね。」
「そういうもんなんですね...」
その脇から友人が腰を上げはじめました。もう帰ろうという合図です。
と店主も素早く反応し、
「まぁ、それでも何回か続けてここで発表するというのであれば、半企画でもいいですよ。」
すると別の利用規約が出て来て手渡されました。
「その代わり、DMは作家が自費で作る。
作品が売れたら売上の30%を画廊が受け取る。
こういう条件でどうですか?」
友人は少し首を傾げていましたが、私はつかさず
「是非お願いします(ペコリ)」と応えたのでした。
画廊を出てから、友人の顔を振り返ると、何だか不機嫌そうな様子です。
「最初の利用規約で承諾していたら、倍の金額だったわけでしょ?」
「いいじゃない、半額になったんだから。言ってみるものね。」
「人を見て、出て来る利用規約が違うなんて、
もしかしたら、もっと他にも条件のいい規約があったのかもよ。」
私はすっかり得した気分でいたわけですが、
しかしもっと肝心なことが全く抜けていたのでした。
1.私は一体、どのような空間でどのような個展をしたいのか?
2.その画廊で発表している作家は、どういう作品をつくって、どのような活躍をしているのか?
3.そもそもその画廊はどういう努力をして来ているのか?
4.その画廊で発表することは、作家としてどのような色がつくことなのか?
本来ならそのようなことを深く考え、お互いをよく知るために、画廊と交渉するべきです。
当時の私はまだ未熟で、全く何も考えずに突き進むばかりでした。
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