在廊
画家とは?画家になるには?一人で日々制作をしていると、無性に人が恋しくなることがあります。でも個展の予定があると、どうしても外に出かけない生活が続くことになります。気持ちの半分くらいは、「あの人どうしているだろう?」と思うものの、正直なところ「人にはあまり会いたくない」という気持ちがあることも確かなのです。矛盾していますね。
どうしても出かけなければならない用事があるわけですが、それでも出かけるタイミングは自分の気持ちと制作作業の内容を見計らって、とても厳密に決めるようにしています。
人に会うと、人の持つエネルギーのようなものを、とても敏感に感じ取って帰ってきます。うまく表現できないのですが、そのエネルギーをアトリエに持って帰ってくるということを、あるときから気づくようになりました。持ってくるという表現は、とてもカジュアルな言い方です。もっと詳しく説明すると、自分の身体に他人のエネルギーというか磁波というものが複製されるような感じです。それが最初何度も再生されて、自分ではない感じがしばらく続きます。この再生がなくなるまで制作はしないようにしています。
だからといって、人間嫌いというわけではありません。制作に一区切りができて、個展がはじまると、まったくそれまでとは打って変わって、毎日人と接することにしています。
個展発表をするようになってから、自分の中であるこだわりを持ち続けています。
その一つが「個展中はよほどの事がないかぎり、必ずずっと在廊する」ということです。
いつだったか、ある作家から、画廊に電話がありました。在廊していた私が電話口に出ると、「ちょっと外に出て来て話を聞いてもらいたい」というのです。私の頭がカチンとしたのは言うまでもありません。「どのようなことがあっても、画廊が開いている間は、一歩も外には出ませんから。」と電話を切りました。
個展中にこれまで、さまざまな人と出会い、作品についての感想をたくさん頂きました。会場のさまざなシーンで語られた言葉が、私の心を幾度となく振動させることがありました。人は美術作品の前で、多様なそして繊細な気持ちを露出します。それはけっして飾られた言葉ではなく、たいていは普段使い慣れている言葉です。心の奥底から汲み出される言葉は、何気ない簡単な言葉なのですが、それを取り出すまでに見事な筋書き立てが準備され、そういう手探りに対話が加わると、次第におもしろい糸口が見えはじめて来ることがあるのです。作品にそういう言葉が描かれているのではなく、作品がその前に立つ人間の脳を刺激して、さまざまな想念を開示させているように思われてなりません。そして語る内容だけでなく、仕草や表情からさまざまな表現がこぼれだします。
そのノンフィクションのドラマを、私は個展の度に楽しんできました。それはその時点ですでに、私と作品とが分離されていることを意味します。作品を背景にする人間を通して作品を鑑賞する側になった瞬間です。その目を持つことができるのは、この個展の時期なのです。制作しているときに見る作品は、まだ未完であり、完成してもそう長い時間をかけて見ているわけにはいきません。作品は、人に見てもらうことで、その内容を充実させ成長させていく、というのが私の持論です。個展会場で、なるべく長く作品と対峙して、さらに多くのことを知り、気づいていくことになります。そしてそれらの出来事が、すべて次の制作の糧になるのです。
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