映画『沈黙ーサイレンスー』ー異文化の受容と排斥を考えさせられる
映画マーティン・スコセッシ監督映画『沈黙ーサイレンスー』
例年になく雪の積る長野で、久しぶりに映画を見ました。
マーティン・スコセッシ監督作品『沈黙ーサイレンスー』です。
昨年から、YOU TUBEでプロモーションビデをを見ていて、とても楽しみにしていた映画です。
1月21日から公開ということで、昨日22日に見に行って参りました。
あのロバート・デ・ニーロ出演『タクシードライバー』を手がけたマーティン・スコセッシ監督が、遠藤周作の小説『沈黙』を、30年の年月を経て熟成した作品。出演者の顔ぶれにも見る前からわくわくさせられました。
素晴らしく年を重ね、ダスティン・ホフマン?というような大俳優になったイッセー尾形や、『シンドラーのリスト』で知られるヒューマニズム俳優リーアム・ニーソン、痛いやら危ういやらの俳優窪塚洋介。きっと映画一本にはおさまり切らない程の演技の多くは、ほとんどカットされて、わずかな氷山の一角がクールにまとめられているという印象がありました。
そういう意味では、イッセー尾形のもっともっと凄い演技力を見たいなーという余韻が残るとか、リーアム・ニーソンの活躍が少ないなとか、窪塚という俳優は太宰治の私小説のような俳優になったのだなとか、とにかく1本の映画に納まり切らないような背景に幾重もの重層を感じて、深い感動がありました。
内容に関しては、あまり触れないようにしなければなりませんが、とにかく深い内容です。宗教をテーマにしていますが、もっと言えば、異文化の受容と排斥の問題は、日本のみならず今この時代の世界に向けての大きな意味あるメッセージと受け止めました。
グローバリズムとナショナリズムという相反するベクトルがあるとすると、経済や宗教や文化というものが国と国の境を乗り越えたり壁を作ったりして、心地よい具合を時代に即して調整していると感じるわけですが、それを急進的に一方的に、ただ闇雲に盲信しているようなものでは、たとえキリスト教でも上手く行かなかったのだと、あらためてキリスト教の歴史や、日本の宗教基盤を振り返ることにもなりました。
日本人の宗教観とか、信仰のありかたは、やはり世界的にも類例のないものかもしれません。どこかで読んだ覚えがあるのですが、遠藤周作という人自身は、子供の頃から両親の影響でキリスト教徒にもかかわらず、本当のところを言うと、心の底からキリスト教を理解出来ているかどうかというと疑わしさがどこかにあると書かれていたことを、ふと思い出しました。
心から信じられるものを持ち、かつその共同体で同じ信仰を共有出来れば、何にも屈しない団結力で、確かに奇跡的な力を発揮することが出来るかも知れません。しかし、その力の向かう矛先には、必ず考えの異なる信仰との敵対が生じてしまうこと、常に征服の夢を追い求めて、闘いと侵略と征服が繰り返されて行いくという副作用も生じるというわけです。
宗教や信仰というものはそういう意味で、ごく個人的な内側の問題として、密かに大切に持ち続けるものであって、広くあまねく人々に強要していくものであってはならない、とつくづく感じたのでした。
翻って、このような私のような一個人であっても、宗教とは名のつかない宗教、さまざまな盲信を持っているということです。例えば「日本人である」とか、「女性である」、「画家である」という時にさえも、幼い頃から洗脳されたある概念が身体に染み込まれていて、それがある意味盲信とも思わず当たり前のこととして信じ続けています。しかしよくよく考えてみると、それは社会が便宜上、人間を種類に分けて安心するためにあるのであって、私自身がその枠付けに頼るべき事でもなければ、左右され侵害される事でもありえないはずです。本来は、何でもない無力な自分であるはずが、知らず知らずのうちに、弱さをさまざまな定義で形あるものにすり替えて強固にしようとする。賢いようで、実は自らを一つの型に押し込めて限界をつくり、与えられた能力のほとんどを無駄にしているのかもしれません。
自分自身は、何を信じさせられているか、ひとつひとつ注意深くよく吟味していく必要がありそうです。
『沈黙ーサイレンスー』は、またもう一度見た時には、その時なりの感想が書けるかも知れません。是非もう一度見たい心に残る映画となりました。
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