マニエリスムなるもの
読書下地塗りの作業は、とても単調なので、そこからのインプットもアウトプットもあまり期待出来ない。
そこで、作業の合間にドローイングをしたり、本を読んだり、収納整理をする日々が続きます。
それも掛け替えのない重要な時間です。
今朝は、突然「マニエリスム」のことが気になり、調べていました。
なぜ気になったかというと、ここ数年例えば一昨年の横浜美術館の松井冬子展、昨年の国立国際美術館のエルグレコ展、今年のフランシス・ベーコン展の盛況ぶりといい、美術館がこのタイミングで取り上げる意味がとても気になる、というかそういう時代なのだと府に落ちるからです。
私の中では、これらは一つの線で繋がっているように見えます。
その線とは、例えば「マニエリスム」という言葉に集約できるのではないか、と。
これらの作品がというよりも、むしろ観衆が「マニエリスムなるもの」への興味本位で見に行く美術展になっていると思えるということです。
確か西洋美術史では、ルネッサンスの終末には、
それまでの理想美とか、自然美というものに人間は飽きたらなくなって、
より刺激的で奇怪で神秘的なものを求めるようになった、というような解説だったかと思います。
そこで、その次はどういう時代だったのだろうかと考えてみると、西洋美術史ではバロックとう時代になるわけですが、この変遷のようなものを知っておく必要があると思い、いくつか参考になる図書を探してみました。
グスタフ・ルネ・ホッケ著、『迷宮としての世界(上・下)――マニエリスム美術 (岩波文庫)』
アーノルド・ハウザー著、若桑みどり訳『マニエリスム 上・中・下巻―ルネサンスの危機と近代芸術の始源 (美術名著選書 12 13 14)』
若桑みどり著『マニエリスム芸術論 (ちくま学芸文庫)』
若桑みどり氏の著作は、大学生の頃に数冊目を通しましたが、当時はマニエリスムにまったく関心がなかったために、あまり深く立ち入らないまま通り過ぎてしまいました。2007年に亡くなられていたことも今朝はじめて知りました。改めて、その研究の重要さにやっと気がつくことができたように思います。
さて、これまでは「マニエリスム」というものは、単なる様式的な特徴(例えば長く異様に引き延ばされた身体表現等)でしか認識していなかった私ですが、より人工的なものへと価値基準が移動していく時代の、これは近代への予兆であったというような解釈もあるようです。
そして、近代に至るシュールレアリスムや抽象表現にさえも共通の性格を認めて、広義に使われる用語になっているらしいことを知りました。
言うなれば、アジア的なものやアニメ、漫画のようなものまでここに加えられるのだとか。
「マニエリスム」なるものが、現代美術の中に今も息づいているというよりも、「マニエリスム」なる側面は常にどの時代にもどこかに存在するけれど、そういうものが浮上しやすい時代傾向がある、というべきなのでしょう。
そもそも「マニエリスム」とは、フランス語読みであって、英語では「 Mannerism=マンネリズム」と表記されます。
過剰、飽和状態が続いた後に来る頽廃的なイメージが強い用語ではあります。
さっそくAmazonの欲しいものリストに上記の本を加えておきました。
内なる自然に従って描くということが、私のこれまでの制作のあり方です。
たしかにヘーゲルの著作を少々齧り、人間中心主義的な考え方に触れると、一方で自分の中の人工的なものに目を向けざるを得なくなって来ます。
それを作品として出すか、出さないか...、一人の作家とは時代が創り上げているものである一方、しかし、その中にさらなる時代を予感するものが期待されます。
そこで私は、今を冷静に見つめる目を持つ一方で、来るべき時代を読み、その萌芽が作品になっていなければならない、そういうことを考えながら制作しています。
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