ジル・ドゥルーズ著『襞―ライプニッツとバロック 』
読書本日はAmazonで2冊本が売れました。『歴史を問う〈1〉神話と歴史の間で』とジル・ドゥルーズ著『襞―ライプニッツとバロック』です。
『歴史を問う〈1〉神話と歴史の間で』は、以前美術史を専攻していた時に、歴史認識がどうしてもつかめなくて、悩んで購入したものです。結局、歴史については阿部謹也氏の本を数冊読んで、「なるほど、そういう歴史研究方法があるのか。。。」と思った後から、とうとう自分なりの独創的な美術史の方法がわからなくなり、この本もほとんど読まなかったかもしれません。そういうことで手放しました。
『襞―ライプニッツとバロック 』は、表紙カバーに、
「バロックはたえまなく襞を生み出すのであり、事物をつくりだすのではない。」
「しかしバロックは襞を折り曲げ、さらに折り曲げ、襞の上に襞、襞にしたがう襞というふうに、無限に襞を増やしていくのである。」
「バロックの線とは、無限にいたる襞である。」
という文章が抜き書きされていて、これに痺れて購入しました(笑)。
これを読んだとき、かつて制作した『風景の襞』の意味を解明してくれている、と思ったのです。
常に本を読む動機は、私の場合、こういうところにあります。
つまり、私は感覚的に作品を制作しているので、それがなぜそのように私の中から生まれて来るのか、実際のところよくわからないのです。それが神秘的であるからこそ、私は夢中に制作できるのです。それで、あまり不思議なのものなので、人に「これはどういうものか?」と必ず聞かれる場面があって、後から自分なりにその疑問を解明するために本を読むような感じなのです。
しかし本当に不思議なことに、ふと本屋で手にしたり、たまたま買った本を開いた瞬間に、自分の制作をまるで裏付けるような言葉や文章に出会って来ました。
そこで、ぱったり出会った言葉にすっかり励まされてしまうと、後はあまり読まないこともあります。この『襞―ライプニッツとバロック 』はそういう本で、何か素晴らしいことが書いてある気がして、長く持って来ましたが、今日売るとなって、はじめて読み返して、ざっと大事そうなところを抜き書きして、さっさと売ってしまいました(苦笑)。
最近は国内の発表活動の熱が冷めてしまって、モチベーションが上がらないので、いよいよ海外で活動することも考えるようになって来ました、したがって、なるべく身の回りにあるものを処分しているところなのです。
この『襞』という本は、バロックの様式、表現しようとしている世界のしくみを、ライプニッツのモナド論によって解明しようとしているようで、このライプニッツのモナド論がよくわからないと、かなり難解です。しかし、中央公論社の『世界の名著〈30〉スピノザ・ライプニッツ (1980年) (中公バックス)』も持っているのですが、これがまた、さらに難解です。とても抽象的で完結に物事を単位とその構造のようなものとして説明されているようなのですが、具体的な話しが出てこないので、なかなかピンと来ません。しかし、このジル・ドゥルーズの『襞』という本を読むと、なるほどバロックはそのようなライプニッツの世界観と関係があるかもしれない、と思えるので画期的な芸術様式分析になっていると思いました。
さまざまな魅力的な彼独自の言葉が散りばめられています。
「襞」「鏡」「水晶体」「紐帯」「繊維」「フェルト」「俯瞰」「包摂」
絵画は「窓」。モナドは「部屋」「建物」。
書き留めた魅力的な文章を並べておきます。
物質のもろもろの部分はたえず分割されて、渦の中に小さな渦を、その中にさらに小さ渦を作り、互いに接しあう渦の窪んだ間隙に、さらに渦を形作る。物質はそれゆえに空虚をもたず、無限に穴だらけ、スポンジ状,多孔質の繊維であり、いつも穴の中に別の穴がある。それぞれの物体は、その中に不規則な通路が穿たれ、ますます精妙な流体にとりまかれ、浸透されているぎりで、どんなに小さくても一つの世界をそなえている。宇宙の総体は「様々な流れや波動にみちた物質の池のようなもの」である。p13
モナドは亀裂などもたず、光は「密閉され」、これが理性にまで高められるとき、それぞれのモナドに灯され、内部のあらゆる小さな鏡によって白を生じるのである。光は白を作り出すが、また影も生み出すのだ。生み出された白はモナドのなかの明るい部分と溶け合い、暗い地、つまり底(fuscum)にむかって暗くなり、減衰していくのである。この暗い底から、「多かれ少なかれ強力で、よく調節された陰影と色調によって」物が生じるのである。p.57~58
「眼のかわりに光るものを、物体のかわりに不透明なものを、射影のかわりに陰影を」p.58
乱流は決してそれ自体で生じることはなく、その螺旋はフラクタルな形成様式にしたがい、それによって新しい乱流がたえず最初の乱流の間に挿入される。それは乱流によって培われる乱流であり、輪郭が消滅する中で、最後に泡やたてがみの形になる。屈折そのものが渦巻き状になり、同時にその変化はゆらぎにむけて開き、ゆらぎそのものと化するのである。p.32
襞は風と不可分である。扇であおがれ、襞は、もうそれを通じて人がものを見る物質の襞ではなく、魂の襞であって、その中を私たちは読み込むのである。「思考の黄色い壁」、〈書物〉あるいは数多くの頁をもつモナド。こうして〈書物〉はあらゆる襞を含んでいる。p.55
ライプニッツの場合、扇の襞ではなく、大理石の縞がこれにあたっていた。そして一方には、物質のあらゆる襞があり、これによって、われわれは顕微鏡で生物を見、軍隊や群れなど、集団が巻き起こす埃の壁を通じて集団を見、黄色と青色の粒子を通じて緑色を見、空しいことや幻想、われわれの心配や憂慮あるいは眩暈などをたえずはぐくんでは、ひしめく無数の穴を見るのである。p.56
傾きとは魂の中の壁であり、包摂されているかぎりでの屈折である。「魂は強制されることなく、傾向を与えられるだけである」p.123
紐帯はまさに群れにおいて、数々の群れによって可変的要素をとりこみのである。その影響下に入るモナドが、それ自体として個体性を失ってしまうからではない(そんなことがあったら奇跡だろう)。紐帯はまさに個体性、モナドの変容、あるいは内的知覚を前提とするが、それはこれらの何も変化させないし、これらに依存するわけでもない。それはただ「共通の変容を」をとりだし、つまりモナドたちが一つの内壁に反響し、一緒になって響かせる〈反響〉をとりだすのである。p.192
群れの中に無数のモナドを捉えるものとは、結び目,紐帯であり、これは支配的要素として限定可能な固体的モナドに固定され、当の群れに対応する物質的な集積を、このモナドの身体に結びつける。p.196
バロック的概念.....物質が多孔性の表面であり、有機的な布に覆われた構造であるということ、あるいは物質が布そのものであり、抽象的な構造を含んだ皮膜であり、繊維であるということである。p.198
2つの襞の間には、間ー襞、二襞(Zwiefalt)、二つの階の折り目、蝶番、縫い目をなす不可分性の帯域がある。p.207
これらの文章が、私の作品と、どこかでオーバーラップしているように思われてなりません。それはなぜなのか。。。きっと、色々な本を乱読している内にまた、気がついて行くこともあるでしょう。
私の作品は、何かを描くというのではなく、ある単位を集積しながら、物事が生まれ、起こり、立ち上がる、そして展開し、ゆらぎ、狂い、破滅して、終息していく。。。そして再び生まれ。。。というような世界の物事の仕組みを、ただの線をキャンバスという基盤に刻み、描くことで小宇宙として見せる、そういう行為なのです。
ですから、このライプニッツの論じようとしていることを、もしかしたら絵画にしている行為とも言えるかもしれませんね。是非、ライプニッツに私の作品を見てもらいたいものです(笑)。
さて、手元に『中世思想原典集成〈16〉ドイツ神秘思想』が届きました。『評伝マイスター・エックハルト』は昨晩で完読しました。市の図書館からは『ビンゲンのヒルデガルトの世界』を借りることが出来ました。女性神秘家のヒルデガルト。どんな幻視を見たのか、読みたくなりました。
次回はこれについて書ければと思っています。
最後に二つお知らせです。
私の作品画像をパワーポイントのフォーマットに活用して、
画像を通して多くの人に作品を紹介することを目的としたサイトが立ち上がりました!
Power Point Template Museum ポポテム
ゆくゆくは世界の人たちに、日本のさまざまなアーティストの作品を紹介するという大志のもと、
英文でのグローバルサイトとなりました♪
簡単な英文ですし、PayPalシステムで、日本円でも買えるようになっています。
お仕事のプレゼンや、学会の研究発表、日本でも幅広くいろいろな方に使って頂けたらと思います。
是非お立ち寄り下さいませ!
展示のお知らせでございます。
マチエール(画肌)の魅力
会場:東京国立近代美術館 所蔵品ギャラリー(4F-2F)
会期:2011年2月22日(火)~5月8日(日)
*休館日:月曜日(但し3/21、3/28、4/4、5/2は開館)、3/22(火)
*無料観覧日:毎月第1日曜日
*展示作品は、『A Thousand of Winds』(162x192cm)です。
*最先端技術CCD撮影画像により、スクラッチとハッチングの線が複雑に交錯する唯一無二の画肌の秘密が明かされます。
*期間中の特別展
2011.3.8-5.8 生誕100年 岡本太郎展
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