わらしべ効果と嬉しい誤算ー1996ー西瓜糖
画家とは?画家になるには?それは、三鷹市美術ギャラリーでの個展開催前のことでした。
1000部も作ってしまって、もてあましたDMを置いてもらえる場所を探し歩きました。
と言っても、すぐにそのような場所は思いつきませんでした。
日頃から、そういう場所に気がついていれば良かったとつくづく反省したものです。
たまたま記憶に残っていた神谷町のギャラリー(現在はもうありません)に、
DMを設置してもらえるかどうか訪ねてみることにしました。
当時は若い女性スタッフがいて、とても親しく話したことがあったのですが、
DMを見せた瞬間に、あまり良い反応がなくて、
「うちでは置く場所がないので」と言われてしまったのでした。
よく考えれば、敷居の高そうなギャラリーでしたし、
神谷町と三鷹市ではちょっと距離があります。
ところがちょうどそこへ、また若い女性のお客さんが入って来ました。
そして紹介されたのです。
「この人に頼みなさいよ。ねぇ。三鷹近いでしょ?」
「なになに?」
「この人、三鷹市美術ギャラリーで個展するんですって。」
「うちなら設置するわよ。西荻窪のカフェギャラリーだけどいいかしら?」
「ぜひぜひ、お願いします(ペコリ)」
「私、西荻窪の西瓜糖っていう変な名前のカフェギャラリーでバイトしているの。
私も女子美出身よ。まかしておいて!宣伝しておくわね。(にこり)会期中私も見に行くね。」
「良かったわね〜♪」
「ありがとうございます!」
ということで、この女性が三鷹での個展に現われて、
次は西瓜糖で個展してみてはどうか、オーナーに頼んでみるから、と言ってくれたのでした。
まさに「わらしべ長者」のお話しのように、一つが次の一つに繋がったのでした。
西荻窪という場所、カフェギャラリーという空間は、
私にとっては、ちょっとしたアングラな感じで、ことの成り行きにテンションもあがり、
年末年始の2週間で新作を10点程仕上げてお正月早々の展示となりました。
ところが良いことばかりでもありませんでした。
カフェギャラリーで展示となると、
見に来て下さる人は必ず何かを注文しなければなりませんでしたし、
そして、店主もお店が暇だと何か言わなきゃ間が持たなかったのか、
キツい一言。
「君、銀座歩いてもっと勉強した方が良いよ。今頃絵なんて描いている人なんていないよ。
今はね、オブジェ。オブジェ作品をつくらなきゃ認めてもらえないね。」
私の中で、突然ふたつの疑問が生まれた瞬間でした。
その疑問は、ある時は将来の不安を招き、ある時は自分の存在を否定するのでした。
「絵を描くって、時代遅れなの?」
「銀座で認められるってことは、そんなに重要なことなの?」
ところが、その不安をよそに、個展終了日までに小作品は全て売れてしまったのです。
店主はちょっと信じられない、というような顔をしていました。
「また、機会があったらおいでよ。」って言ってましたが...、
あのキツーい一言がまたもや頭の中を無限ループして、
二度とそこへは行くことがなかったのでした。
そのカフェギャラリーも、とうの昔に消えてしまいました。
オブジェという言葉が、人々の記憶から消えてしまったように...。
閉店のおしらせを人づてに聞いた時に、
重要なことに気づいたのです。
そして、ノートにこれからの教訓として箇条書きをしたものでした。
1.自分自身が経験したことが真実。
2.人の言うことはあてにならない。
3.人からの情報は、必ず自分で歩いて確かめる。
4.人や世の中の意見に左右されない。
5.自分の本当に心からしたいことに真っすぐに従う。
6.人に認められたくて絵を描くのではない。
箇条書きの6番目はとても重要です。
もっと付け加えるなら、絵を描く理由なんて、
何も持たない方が良いというのが私の持論です。
なぜなら、分かりやすい理由には、必ず反対意見があり、
理屈でいくらでも反論されて正しさを立証出来ないからです。
むしろ、理由を持たない、人に話せない方が強いです。
ところが、自分自身が弱っていると、理由が欲しくなるものです。
何かはっきりした目標がある方が、人に弁解出来るからです。
でもそういう生き方は、必ずどこかで立ち行かなくなります。
大切なのは、一歩一歩です。
一つの個展が終わったら、次の個展に一生懸命になる。
ただそれだけを信じて、20年活動することが出来ました。
そして極めつけは、この個展終了後すぐに、予期せぬ朗報が舞い込んだことです。
西瓜糖にたまたまお茶をしに来ていた、装丁デザイナーさんから電話が入り、
個展DMの作品画像を岩波同時代ライブラリーの表紙に掲載したいと行って来たのです。
この出版社からは、後にもっと大きな表紙画の仕事を頂くことになるわけですが、
この時に誰がそれを予想することが出来たでしょう。
銀座でもなかったし、画廊でもなかったけれど、そして絵だったけれど、
これほど次に繋がる効果の上がった個展を今でも、
「やって良かった」と胸を張って言えるのです。
そう思うと、あの無限ループしたキツい一言など、何の意味もなかったし、
むしろ今では感謝の気持ちで、
あの青春の1ページを懐かしく思い起こすことができるのです。
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