「ままならない」「思うようにはいかない」ことが現実を生きる喜び
わたしのこと「芸術を志すとは、必ずしも芸術作品をつくるだけのことではない」ということを最近強く感じるようになりました。
芸術活動の出来る条件に恵まれる人は、社会に多数存在するものではありませんし、それほど多く必要とされるわけではありません。むしろ現代社会のさまざまな分野では、創造的に生きることのできる人、新しい社会を積極的につくろうという魅力的な人、もしかしたら芸術家を自負するような魅力的な生き方そのものなのではないか、と切実に感じます。
芸術が社会に果たす役割は、制作されたそのもの自体の価値や評価にとどまるものではなく、それを取り囲む「文化や社会全体の意識や観念、創造的な活動を引き起こす源泉」になること、あるいは逆説的には美術作品とは、そういう社会的な無意識をも含む意識のひとつの凝縮され、集約された結晶のようなものとも言えるかもしれません。そして、それらは卵が先かにわとりが先か、と同じように同時に存在するのでしょう。
つまり人が従来の既成概念を崩して、新しい観念を生む時、あるいはそれを人類自体が必要とした時に、純粋な形で、多くの人に影響力を与える形で、新しい芸術作品が形になって見えるようになるにしても、本来重要なのは、そういう美術意識を可能にした、あるいはそれを新しい意識として享受できる人間、美(術)意識を取り囲む社会が存在するからこそ、それが可能になったという見方もできると思うのです。そうであるとしたら、受けとめる人々が存在しなければ、いくら芸術家がつくり続けても、それを感受されない、社会で必要としない、存在しないも同然という事態になるわけです。
しかし、それも現実の真の姿です。完璧で個人の都合に合うような現実などはありません。もしそういうことがあれば、それは人間の作為がつくりだした不自然なことであり、それはすぐにボロを出して崩壊します。ボロとは、人間や自然を無理矢理その作為に押し込めて、かえって問題を悪化させる、苦悩を生み出すということになりかねない、ということです。
「ままならない」「思うようにはいかない」そのことに出会うことが驚きであり、現実を生きているリアリティであり、喜びなのです。そしてそれを受け入れ、その運命に身をゆだねる、それを信じる、それを活かして生きていくのが、自分にとって一番合っているようです。私は自分の制作づくりから、そういことを経験的に知っていたはずなのです。
しかし長い間制作を続け、その行為が習慣化し、順調になり、とても楽にできるようになってしまうと、そういうことを忘れていくのです。ここへ来て、もっと難しいこと、苦悩や混乱を生み出す努力、そこへ飛び込む勇気が必要になって来たことをひしひしと感じています。
まったくもって、私の人生というのは、ままなりませんね(苦笑&歓喜)。
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