Category: 美術展散歩

長野県立信濃美術館へ

先日散歩もかねて、近くの長野県立信濃美術館へ行って来ました。 途中、ちょっとした坂道があります。 写真は、そこ Read More

複製芸術と資本主義ー国立国際美術館コレクション展

前回、国立国際美術館で開催中の草間弥生展とコレクション展について書き込みましたが、書き残しがあったせいか、制作 Read More

サマセット・モーム『人間の絆』・アラベスク模様・草間弥生展

昨年を表わす漢字は『絆』でした。ラジオで未だに、この言葉を耳にする時、私が思い起こすのはフランス生まれのイギリス育ち、そしてロシア革命時には、イギリス情報局秘密情報部で情報工作員でもあったとされるサマセット・モームの『人間の絆』という小説です。10年程前に英語本の多読にハマっていた頃に、この人の小説やエッセーに夢中になりました。私が小説を読むというのは、滅多にないことなので、余程ツボに入ったということになります。

この『人間の絆』は、モームの自伝的な小説で、自らの不幸な生い立ちが題材となっているのですが、主人公フィリップを通して、彼独自の実存的な人生観が描かれ、深く心に染み入る作品です。巻末の翻訳者の中野好夫氏の解説に「柳は緑、花は紅と、われわれはここで付け加えたいところであろうか。それとも幸福の否定において、寂滅(ニルヴァーナ)の幸福に達したといえようか。...」という文章から仏教的な人生観を読み取り、いわゆる大衆小説を超えた深い死生観に、ため息をついたものでした。

しかしモームの小説自体には、仏教的な用語は使われてはいなくて、その代わりに「ペルシャ絨毯の模様」という言葉になっています。原文には確か、patern of arabesqueと書かれていたと記憶しています。その意味するところは、人間の人生模様というようなものは、意図してその個人が創造するというようなそのような狭い規模の問題ではなく、生きとし生きるものが、複雑にアラベスクの模様のように絡み合い、どこをどう切り離そうと、自分が意図してそのようになった部分など見極められるものではない、むしろさまざまな関係性の中で、それがそのように生きる以外なかったのだ、というような諦めの境地を、このアラベスク文様に託して語られているのです。

モームの中では、おそらくペルシャのアラベスク文様は、無意味、無個性、パターン化の象徴なのでしょう。人は創造的に自分らしい生き方をしようと苦悩する、しかしそうしようとすればする程、自分の無力さと、愚かさを思い知るばかりです。そして、なぜそのように生きなければならないのか、と自問しても、それはただそういう運命であったとしか言えないことばかりです。

「人生に意味などは、なにもないのだ。宇宙を突進している一恒星の、そのまた一衛星にすぎないこの地球上に、この遊星の歴史の一部である、或る種諸条件が揃った時、それによって、生物はただ偶然に生まれたのであり、したがって、他の或る種条件が揃えば、それは永久に消えてしまうだろう。人間とても、他のもろもろの生物と同様、無意味な存在にすぎないことは、すこしも変わりなく、創造の頂点として生れたものなどでは決してない。ただ環境への物理的反応として現われたものにすぎぬ。」(モーム『人間の絆』)

しかし、この諦めが決して深刻な二ヒリズでは終わらないのです。そこが、所謂ニーチェ的なニヒリズムと仏教的な虚無感の匂いを嗅ぎ分けられる、モーム小説の大衆小説に徹した力強さ、真骨頂と言えましょう。

「もし生が無意味だというならば、世界はその残忍性を剥奪されたも同様だった。彼がしたこと、し残したこと、いずれもみんな無意味なのだ。失敗も無ければ、成功も無。彼自身は、この地球の表面に、ほんの束の間存在し消える夥しい人間群の中の、最も小さい生き物にしかすぎないのだ。しかも混沌から、その虚無の秘密を探りとった彼は、その故にまた全能者でもあるのだ。彼は躍り上がって歌い出したくなった。....ひっきょう人生は、一つの模様意匠にすぎないと、そう考えてよいのだ。特にあることをしなければならないという意味もなければ、必要もない。ただすべては、彼自身の喜びのためにすることなのだ。行動といい、感情といい、人生の錯雑した、さまざまの事実の中から、人は精巧、整斉、複雑、華麗、それぞれの好みの意匠を織りなしてゆけばよいのだ。」(モーム『人間の絆』)

このような諦めからの逆転的な発想が、この小説の『人間の絆』という題名の「絆」に込められています。昨今の日本で使われている「絆」とは、かなり異なる内容なのです。「絆」という言葉に某かの違和感を感じている方は、是非この文字の理解のためにも、お勧めの1冊です。

さて、私はちょうど10年前の2002年に『BIO-ARABESQUE』(227.5x145cm)という作品を制作しました。偶像崇拝をしないイスラーム文化の美術表現と抽象表現とはどこか地下の経路で繋がるものを感じていたこともあり、ペルシャンブルーを基調とした絵具層をスクラッチし、模様と絵画の境界を探るようにして制作したのでした。この作品はその後、2002年に女子美アートミュージアムの企画グループ展『絵になる瞬間』展に出品し、そのまま女子美術大学の所蔵になったのでした。

抽象と模様とは、絵画の上で際どい問題を露呈させます。私はよく「模様のような絵ですね」と、よい意味で親しみをこめて感想を寄せて下さる人が多く、その言葉に戸惑いながらも、しかし冷静にそれについて考え続けて来ました。常に模様と風景と抽象の狭間で葛藤し、答をハッキリさせずに立ち止まり、ある時は思い切って失敗をしてみます。その立ち止まりと失敗こそに、新しい世界が見えて来る瞬間があるからです。「模様」と言われるときの、何らかの後ろめたさとは一体何なのか、人々が風景を見て喜び、安心しようとする。その心のよりどころを分ちようとする反面で、冷たく引き離し芸術に立ち向かう姿勢は、厳しく、孤独で、身が引き離されそうになることもあるのです。しかし勇気を持って前を向き、再び姿勢を正すのです。

画家として生きて行くことは、時に辛苦を味わい、矛盾に苦悩し、人生に迷い翻弄されます。ここ数年、とりわけ震災後、私は「もう画家であることを止めよう」と何度思ったことでしょう。しかしその問いは常に、いわゆる人としての「正しさ」の判断が、いかに愚かで手ぬるいものかを味わされるだけでした。人のためにとか、正しさを見せる、というようなことなど、所詮私の力の及ぶ事ではなかったのです。私は、筆を持ちカッターナイフで絵具を削るという方法でしか、満足に自分を活かす方法がないのだと、やっと気づくことができました。

昨日は、往復高速バスで大阪の国立国際美術館の『草間弥生 永遠の永遠の永遠』を見て来ました。私としてはむしろ同時開催のコレクション展に、心励まされ帰って来たと言えるかもしれません。コレクション展は、国立国際美術館が所蔵している女性作家の作品を中心に構成されていました。海外では、キキ、ブリジット・ライリーやウングワレー、国内では辰野登恵子、松本陽子、町田久美、内藤礼、高柳恵里、風間サチコ等。このようにまとめて良質な小品を見たのは初めてだったかもしれません。本当に楽しむ事が出来ました。でも、草間弥生のもっとずっと初期の作品を見たかったのですが、それがニューヨーク時代のネット作品止まりだったのは、かなり残念でした。草間弥生の長野時代の作品には、胸にぐっと来るものがあるのです。それが何なのか、ずっと知りたいと思っています。松本に行けば何かわかるのでしょうか?

女性がその一生を芸術に捧げることができるようになるのには、太古の昔から連綿と続く沢山の女性の少しずつの勇気と努力の積み重ねの果てにあるのです。けっして一人の女性作家の力のみでは、成し得なかったことです。それらの大いなる力に深く感謝し、その感謝を作品に還元して行かなければならないと決意したのでした。

ここでお知らせです。

4月7日(土)~6月3日(日)
横須賀美術館所蔵品展「横須賀・三浦半島の作家たち」にて下記作品が展示予定です。
『sea and stone 硯海』2006年作 227x91cm4枚組

kaneko2006展示風景

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近代について

先日東京駅の丸善でチャールズ・テイラーの著作『自我の源泉 近代アイデンティティの形成』『〈ほんもの〉という倫理 近代とその不安』『近代 想像された社会の系譜』『今日の宗教の諸相』を購入しました。丸善には、読書テーブルのコーナーがあって、重たい本を立ち読みしなくてもよいようなサービスがあるのですが、残念ながらその日も、満席でした。いつもなんですけどね。それもほとんどの人が、休憩か居眠りをしているようにしか見えない。いや、もしかしたら「全部買いなさい」ということかもしれないと、その時勝手に判断し、全部買うことにしたのでした。本当はセレクトして買おうと思ったのですが(言い訳)。

本は1冊ではそれ程重いと思ったことはないのですが、数冊になると最近は無理せずに宅急便を使うようにしています。丸善のレジで配送サービスがあるかどうか尋ねてみましたら、何と「1万円以上のお買い上げは送料無料」だそうです。聞いてみるものですね。早速無料で配送をお願いしました。いつからそうなったのでしょうか?これまで随分重い思いをして来ましたが、あれは何だったのでしょうか(苦笑)?ま、深く考えるのはよしましょう。このようなお得な情報は、最近はそれを必要とする人にしか伝わらないようになっています。プロバイダー契約も、ネットからするとプリンターが貰えたり、契約金が安くなったりする時代ですからね。

話が少し脇道にそれましたが、チャールズ・テイラーの本を、それ以来、同時並行して読んでいます。この著作者のことはこれまで全然知らなかったのですが、とても読みやすい文体なのでお勧めです。これまで「近代美術」と言う時と「現代美術」という用語を使う時のニュアンスの違いについて、ずっと違和感とか、疑問を抱いて来たので、このテーラーの本から「近代」とはどういう概念かが少しずつ明確になって行き、こんがらがった糸の綾が解され、少し柔らかくなっていくような感覚があります。

まだどれも途中までしか読んでいないのですが。やはり「私たちはまだ近代という概念の中に生きている」ということを、当たり前のことですが、再確認することができました。近代と現代とを一本の線上の延長として横並びに結びつけている人が結構居て、そういう認識にずっと疑問を持ち続けていました。つまり「近代美術って、現代美術以前のアートでしょ?」というような意識です。確かに、最近世界的にあちこち「現代美術館」という名称の建物が立つようになったので、いかにもそれが新しい美術の発信源という感じがしてしまいます。確かにそれは全くの間違いではないのですが、やはり認識としては不十分なような気がします。

私たちは、近代に生きているという場合のこの「近代」は、歴史的な位置づけをした上での認識なのですが、「現代」とはこの歴史的な土台から遊離されている感覚があります。例えば現代美術でいえば、とにかく最先端技術を使ってみたとか、これまでの脈絡に関係なく、突発的に趣向の変わったものが出て来た、という内容になるのです。それがいいかどうかとか、評価に値するかどうか、という考察は全く意味をなしません。なぜなら、歴史に切り離されていること自体が重要だからです。もし歴史に裏打ちされていれば、それは「近代」のカテゴリーに含まれることになるわけです。評価は必ず時代という考察なしにはあり得ないわけで、そういう意味で「現代美術」はそもそも評価をすることのできないものなのです。

そしてその「現代美術」も10年も経てばもはや「現代」とは言えなくなってしまいます。そこで多くは消え去るものです。ただリアルタイムで「近代」的な位置付けがすぐにはわからない形で、暗に仕込まれていた場合、突如としてそれに気付いた人によって「近代」の脈絡で評価され、それが歴史的に重要な遺物として残されて行く。そういうものなのではないでしょうか。

今のところチャールズ・テイラーの著作に、そういうようなことは全然書かれていないのですが、読みながら、「そういうこと書いてないかしら?」と探しながら読んでいる自分があります。

さて、丸善に行った日は、その足で東京国立近代美術館の「ポロック展」を見に行きました。あまりに有名ですし、数年前にニューヨークのグッゲンハイム美術館でペーパーワーク展を見て、良い作品を堪能できましたから、今更見に行くかどうかということも感じなくもなかったのですが、そういう時に限って後から後悔するものですからね。やはり見に行くことにしました。結果、やはり見て良かったと思います。初期の珍しい作品がたくさんありました。ポロックらしい作品しか知らない人は、きっと目に鱗でしょう。久しぶりに展覧会カタログも購入して、内容がとても充実していて満足でした。特に「具体美術協会とジャクソン・ポロック」については、わくわくしながら読めました。

ところで、その日は予定していたバスに乗り遅れ、相模原の東横インに1泊してしまいました!そうそう、最近引越しをしたのです。でも結局これまでの生活とそれ程違いもないので、まだほとんどの人にそのことはお知らせしていません。引越しをした理由もいろいろな理由を言い当てることも出来ますが、一番の理由は、「どこに住んでも同じだから」です。たまたま住んで見たくなるような物件との出会いがあり、これまでの相模原の生活に終止符を打つことになりました。

「地震の影響ですか?」と聞く人もいるのですが、日本中というか世界中のあちこちで頻繁に地震があり、世界のどこに行っても、安全な土地などどこにもありません。画家にとっては、どこでもサバイバルな人生です(笑)。たとえ筆が無くても、キャンバスが無くても、画家は絵を描き続き続けます。絵とは何か?
……人生そのものが絵であり、夢であり、希望なのです。

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